生物学的製剤 一覧

関節リウマチに対して、本邦で使用可能な生物学的製剤は、TNFを標的とするインフリキシマブ(レミケード®、インフリキシマブBS®(バイオシミラー))、エタネルセプト(エンブレル®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、ゴリムマブ(シンポニー®)、セルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)、IL-6を標的とするトシリズマブ(アクテムラ®)、T細胞を標的とするアバタセプト(オレンシア®)があります。

2017年10月時点

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    生物学的製剤一覧

インフリキシマブ(レミケード®)

わが国で一番初めに承認された生物学的製剤であるレミケードは、これまで数多くのエビデンス(科学的根拠)に実証された有効性を持ち、TNF阻害剤唯一の点滴製剤であり、これからもリウマチ治療になくてはならない薬剤であります。

今後、導入前のTNF-α濃度を指標にIFX量を設定し、各々にあったテーラーメード医療を行える可能性の秘めた薬剤でもあります。

最も歴史のある薬剤

関節リウマチに対する生物学的製剤の中で最も歴史のある薬剤です。1993年にTNFに対する最初のモノクローナル抗体製剤として優れた臨床効果が示されました。さらに、関節破壊を抑制する効果が臨床試験(ATTRACT試験)で示された結果、1999年に米国、2000年に欧州、2003年に本邦でも関節リウマチ治療薬として承認されました。

メトトレキサート(MTX)を併用必須

抗体のTNFに対する結合部分が一部マウス由来の成分で構成されており、その部分に対する抗体(中和抗体)が出現し、効果が減弱してしまうのを防ぐために、メトトレキサート(MTX)を併用する必要があります。

増量・投与間隔短縮が可能

TNF阻害薬のなかでは唯一の静脈投与製剤であり、効果の発現が早いのが特徴です。早い方だと数日以内に効果を実感できます。また、効果不十分なときには投与量を増量(3~10mg/kg)もしくは投与間隔を短縮(6~8週間毎)することで効果が得られることがあります。

点滴投与・投与時間は約2時間

通常3mg/kgを1回投与量として点滴静注します。投与間隔は、初回投与後、2週、6週に投与し、以降8週間隔で行われ、2時間の点滴です。その後、30~60分まで投与時間の短縮が可能となっています。

BeSt study・RRR試験

レミケード®(IFX)で最も画期的であった臨床試験が、BeSt studyです。これは、発症2年以内の未治療リウマチ治療で、治療開始時よりMTX+IFX治療を行うことによって、2年後に56%がIFX中止可能(バイオフリー寛解)となり、5年後にはMTXも休薬となった薬剤フリー寛解(19%)も含めると58%がバイオフリー寛解を維持可能でありました。

この試験の結果によって、リウマチは治癒する可能性がある疾患へと変貌を遂げることとなりました。

 

さらにわが国では、産業医科大学第一内科学講座田中良哉教授を中心にRRR試験(トリプルアールスタディ)が世界中で脚光を浴びました。それは、BeSt studyと比べ、罹病期間が長く、関節破壊の進んだ方々であっても、IFX休薬後1年間55%の方々が低疾患活動性を維持でき、その67%で構造的寛解を維持しておりました。低疾患活動性を維持するためには、IFX投与時に、出来るだけお若く、罹病期間が短く、関節破壊の程度が軽いことが重要であることが分かりました。

早期リウマチでなくてもIFX中止が可能であることが示され、世界中の長い間リウマチで苦しんでいた方々の光となる結果でありました。ただ、可能な限り早期の導入が重要であることも同時に示されております。

エタネルセプト(エンブレル®)

長期にわたって有効性が持続し、安全性が高い

インフリキシマブとほぼ同時期に開発されたエタネルセプトはTNFに対する受容体と免疫グロブリンの一部の融合蛋白製剤で、抗体製剤と異なり中和抗体が産生されない免疫原性から、長期にわたって有効性が持続することや、再投与に際しても安全性が高い特徴を持ちます。

TEMPO試験で関節破壊の抑制が示されている

薬剤も関節破壊の進行を抑制することが臨床試験(TEMPO試験)で示されています。2005年に本邦で承認されました。

皮下注射

週1回もしくは週2回の皮下注射製剤で、半減期が短く、中止したら比較的短い期間で血中からなくなることから、安全性を重視しなければならない高齢の患者さんなどに多く使用される傾向があります。

アダリムマブ(ヒュミラ®)

2週間に1回の皮下注射で簡便

エタネルセプトの次に登場した製剤です。2週間に1回の皮下注射である簡便さから欧米では最も使用頻度が高いTNF阻害剤です。本邦では関節リウマチに対して2008年に承認されています。

MTXとの併用で有効性が高い

十分量のMTXとの併用で有効性が高いと言われています。本邦では早期関節リウマチ患者さんにおいて、MTX単剤と比較してアダリムマブを併用した方が、関節破壊の進行が抑制できるという結果が報告されています(HOPEFUL試験)。

DMARDsと同時開始が保険で認められている

生物学的製剤のなかで唯一、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)との同時開始が保険で認められている薬剤であり、疾患活動性が高いなど、関節破壊の進展が早いと予想される患者さんに診断の直後の早い段階から用いることがあります。

ゴリムマブ(シンポニー®)

日本の患者さん目線の薬剤

2011年7月に4週毎の皮下注射製剤として承認されています。

1~2週間毎の自己注射投与可能な皮下注射製剤と比べ、4週間間隔で通常の診療日に合わせて、診療・一瞬で治療を終えられる最大のメリットがあります。点滴製剤であれば、点滴時間だけで30分~2時間の時間的拘束を受けます。また、自己注射を覚える、また、覚えられない場合1~2週間隔で皮下注射を受けに医療機関行かなければならない負担を考えると、最も日本の患者さん目線の薬剤といえます。日本の方々は、一般的に治療を自宅で、自分で行うという事にとても抵抗を感じる傾向にあるためです。

医療機関で月1回、皮下注射

完全ヒト型抗体であるため、TNFに対する結合親和性が高い薬剤です。自己注射は承認されていないため、月に1回受診したときに注射をします。1本(50mg)で効果不十分な場合や、MTXを使えない場合には2本(100mg)/月を用いることができます。他の皮下注射製剤よりも注射時の痛みが少ないと言われています。

GO-FORWARD試験

MTXに効果不十分な関節リウマチ患者さんを対象として、ゴリムマブの追加併用を行うと臨床指標が改善したという結果が報告されています(GO-FORWARD試験)。

セルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)

病変局所への移行がしやすい

2012年11月に本邦で承認されました。この製剤は抗原に結合する一部分のみに遺伝的工夫がなされており、TNFに対する結合親和性を高め、さらにポリエチレングリコール分子を付加しているため、血中半減期が安定し、病変局所への移行がしやすいことが特徴とされています。関節リウマチに対する臨床試験において、関節破壊の抑制や日常生活動作の改善などが確認されています。

妊娠中でも使用可能

妊婦が使用しても胎盤通過が極めて少ないことが報告されており、2014年改訂の日本リウマチ学会TNF阻害薬使用ガイドラインでも、「セルトリズマブペゴルはFc領域を有さないため胎盤通過に関与するFcRn受容体の影響を受けず、胎盤通過が極めて少ないことが報告されている」と記載されています。

トシリズマブ(アクテムラ®)

ヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体製剤

本邦発のヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体製剤です。IL-6はTNFと同じく炎症性サイトカインの一つで、関節リウマチの病態のなかでも重要な役割を演じていることが知られています。トシリズマブはIL-6の受容体を阻害する作用があり、多くの臨床研究で関節リウマチに対する有効性が示されています。

単独療法(アクテムラのみ)でも高い有効性

これまでのレミケード(MTX併用必須)、エンブレル・ヒュミラはMTX併用によってはじめて驚くべき臨床効果、関節破壊抑制効果が発揮されたのに対し、アクテムラは単独療法(アクテムラのみ)でも高い有効性が証明されております。

MTX併用が行えない場合の生物学的製剤は、アクテムラ投与が推奨されております。

継続率が高い薬

一次無効、二次無効が極めて少なく、生物学的製剤の中で最も継続率が高いです。これは、アクテムラがヒト化製剤であり、B細胞の活性化を抑制することで、抗体産生を抑制し、その結果アクテムラに対する抗体産生が極めて少ない(2~3%)ためと考えられます。

 臨床効果の発現は早ければ1ヶ月、平均して3ヵ月でみられます。

豊富なエビデンス

SAMURAI試験(2007年)、TOWARD試験(2008年)、OPTION試験(2008年)、RADIATE試験(2008年)、SATORI試験(2009年)、AMBITION試験(2010年)、LITHE試験(2011年)など豊富なエビデンスがあり、アクテムラは臨床的寛解、構造的寛解、機能的寛解を期待できる薬剤です。

ADACTA試験

海外で実施された臨床研究(ADACTA試験)では、MTXを併用しなかった場合の直接比較でアクテムラがヒュミラよりも有効性が優れていることが示されました。

DREAM試験

アクテムラ単独療法からの薬剤中止を試みた本邦のDREAM試験では、アクテムラを中止し、再燃なく1年以上維持出来た方は10-20%で、再燃しても再投与行うと速やかに回復するという結果でありました。この試験は、MTX併用がなく、バイオフリーというよりいわばドラッグフリーというより高いハードルにもかかわらず、ドラッグフリーが10-20%可能であったのは、驚くべき結果と捉えられます。

アバタセプト(オレンシア®)

T細胞を標的とする薬剤

生物学的製剤の中でも唯一、サイトカインではなくT細胞を標的とする薬剤です。T細胞はリンパ球の一つで、関節リウマチの病態において、炎症の促進や破骨細胞の分化にも関与しています。アバタセプトはT細胞の活性化を阻害することで関節リウマチの病態を抑制する薬剤で、数々の臨床試験でその有効性が示されています。また、アダリムマブとの直接比較試験で非劣性が示されています(AMPLE試験)。

AVERT 試験

オレンシアはACPA(抗CCP抗体)を正常化し、それは高い治療反応と関連性があることが示されました(AVERT試験)。AVERT 試験で得られたサブ解析から、さまざまなタイプのACPAに対するオレンシア+MTX併用療法の効果、そして臨床的反応との関係を評価しました。

 

これらのデータから、試験開始時にIgM抗体型ACPAが陽性であった患者群では、同抗体が陰性であった患者群に比べ、オレンシア+MTX 併用療法がより高い臨床的有効性を持つことが示唆されました。同時に、時間の経過とともにセロコンバージョン(ACPA陽性から陰性への転換)が認められた患者群では、転換が認められなかった患者群に比べ、オレンシア+MTX 併用療法がより高い臨床的有効性を持つことも示唆されました(それぞれ群の61.5%、41.2%がBoolean基準による寛解を達成)。つまり、これらのデータから、ACPAに対する効果がRA患者に対する臨床ベネフィットと関連していることが示唆されています。

 

オランダのライデン大学メディカルセンターのT.W.J. ホイジンガ氏(Huizinga, M.D., PhD)は次のように述べています。「これらのデータは、自己免疫の高活性化と自己抗体の存在を特徴とする早期RAにおいて生物学的療法がACPAに影響を及ぼす可能性があることを初めて示したデータの一つである。これらの所見は、こうした生物学的反応の指標が疾病の定義と治療法管理において果たしうる役割について、さらなる知見を提供するであろう」と。