関節リウマチの分子標的治療

生物学的製剤とJAK阻害薬

関節リウマチの病態

関節リウマチのおおもとの病気の原因は未だにわかっていないことが多いのが実状ですが、長年の研究の成果によって、関節リウマチ患者さんの体の中で、どのようなことが起こっているか、その病態が少しずつ分かってきました。その中でも重要な役割を果たすのが、サイトカインと呼ばれる蛋白質です。サイトカインはインターロイキン(IL)や腫瘍壊死因子(TNF)などを含めておおよそ100種類ほど知られており、いろいろな細胞から作り出され、免疫や血液に関わる細胞や全身臓器に作用し、複雑なネットワークを作ります。このネットワークの中では、リンパ球や単球と呼ばれる炎症細胞、関節局所では線維芽細胞、破骨細胞、血管内皮細胞などが働いており、それらが相互に作用したり、サイトカインを介することで活性化し、炎症や関節破壊がもたらされます。

 

生物学的製剤と分子標的低分子化合物とは

これらの炎症における複雑なネットワークをつなぐ特定のサイトカインや、特定の炎症細胞どうしの相互作用に関わる分子をピンポイントに標的とする治療を分子標的治療と言います。その中でも、化学合成ではなく生物(チャイニーズハムスターの卵巣細胞など)を用いて、抗体やその受け手である受容体などの蛋白質を遺伝子工学の手法により作成したものを生物学的製剤と言います。一方、従来の手法である化学合成で作成した薬剤を低分子化合物と呼び、リウマチの病態に関わる分子を標的としたJAK阻害薬はそのひとつです。生物学的製剤は分子量が数万以上と大きいため体内の細胞の表面や細胞の外の物質の阻害・中和などの作用ですが、低分子化合物は数百程度の分子量であり細胞の中にまで入り込み作用を発揮します。そのため、生物学的製剤は大量に投与されても比較的安全ですが、一方、低分子化合物では用量の安全域が比較的狭くなるという違いもあります。

 

本邦で使用可能な生物学的製剤

関節リウマチに対して、本邦で使用可能な生物学的製剤は、TNFを標的とするインフリキシマブ(レミケード®、インフリキシマブBS®(バイオシミラー))、エタネルセプト(エンブレル®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、ゴリムマブ(シンポニー®)、セルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)、IL-6を標的とするトシリズマブ(アクテムラ®)、T細胞を標的とするアバタセプト(オレンシア®)があります。それぞれの特徴は表に示した通りです。

 

  1. インフリキシマブ(レミケード®)
    関節リウマチに対する生物学的製剤の中で最も歴史のある薬剤です。1993年にTNFに対する最初のモノクローナル抗体製剤として優れた臨床効果が示されました。さらに、関節破壊を抑制する効果が臨床試験(ATTRACT試験)で示された結果、1999年に米国、2000年に欧州、2003年に本邦でも関節リウマチ治療薬として承認されました。抗体のTNFに対する結合部分が一部マウス由来の成分で構成されており、その部分に対する抗体(中和抗体)が出現し、効果が減弱してしまうのを防ぐために、メトトレキサート(MTX)を併用する必要があります。TNF阻害薬のなかでは唯一の静脈投与製剤であり、効果の発現が早いのが特徴です。早い方だと数日以内に効果を実感できます。また、効果不十分なときには投与量を増量(3~10mg/kg)もしくは投与間隔を短縮(6~8週間毎)することで効果が得られることがあります。

    レミケード®(IFX)で最も画期的であった臨床試験が、BeSt studyです。これは、発症2年以内の未治療リウマチ治療で、治療開始時よりMTX+IFX治療を行うことによって、2年後に56%がIFX中止可能(バイオフリー寛解)となり、5年後にはMTXも休薬となった薬剤フリー寛解(19%)も含めると58%がバイオフリー寛解を維持可能でありました。この試験の結果によって、リウマチは治癒する可能性がある疾患へと変貌を遂げることとなりました。さらにわが国では、産業医科大学第一内科学講座田中良哉教授を中心にRRR試験(トリプルアールスタディ)が世界中で脚光を浴びました。それは、BeSt studyと比べ、罹病期間が長く、関節破壊の進んだ方々であっても、IFX休薬後1年間55%の方々が低疾患活動性を維持でき、その67%で構造的寛解を維持しておりました。低疾患活動性を維持するためには、IFX投与時に、出来るだけお若く、罹病期間が短く、関節破壊の程度が軽いことが重要であることが分かりました。早期リウマチでなくてもIFX中止が可能であることが示され、世界中の長い間リウマチで苦しんでいた方々の光となる結果でありました。ただ、可能な限り早期の導入が重要であることも同時に示されております。わが国で一番初めに承認された生物学的製剤であるレミケードは、これまで数多くのエビデンス(科学的根拠)に実証された有効性を持ち、TNF阻害剤唯一の点滴製剤であり、これからもリウマチ治療になくてはならない薬剤であります。今後、導入前のTNF-α濃度を指標にIFX量を設定し、各々にあったテーラーメード医療を行える可能性の秘めた薬剤でもあります。

    投与方法;
    通常3mg/kgを1回投与量として点滴静注します。投与間隔は、初回投与後、2週、6週に投与し、以降8週間隔で行われ、2時間の点滴です。その後、30~60分まで投与時間の短縮が可能となっています。

  2. エタネルセプト(エンブレル®)
    インフリキシマブとほぼ同時期に開発されたエタネルセプトはTNFに対する受容体と免疫グロブリンの一部の融合蛋白製剤で、抗体製剤と異なり中和抗体が産生されない免疫原性から、長期にわたって有効性が持続することや、再投与に際しても安全性が高い特徴を持ちます。この薬剤も関節破壊の進行を抑制することが臨床試験(TEMPO試験)で示されています。2005年に本邦で承認されました。週1回もしくは週2回の皮下注射製剤で、半減期が短く、中止したら比較的短い期間で血中からなくなることから、安全性を重視しなければならない高齢の患者さんなどに多く使用される傾向があります。

  3. アダリムマブ(ヒュミラ®)
    エタネルセプトの次に登場した製剤です。2週間に1回の皮下注射である簡便さから欧米では最も使用頻度が高いTNF阻害剤です。本邦では関節リウマチに対して2008年に承認されています。十分量のMTXとの併用で有効性が高いと言われています。本邦では早期関節リウマチ患者さんにおいて、MTX単剤と比較してアダリムマブを併用した方が、関節破壊の進行が抑制できるという結果が報告されています(HOPEFUL試験)。また、生物学的製剤のなかで唯一、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)との同時開始が保険で認められている薬剤であり、疾患活動性が高いなど、関節破壊の進展が早いと予想される患者さんに診断の直後の早い段階から用いることがあります。

  4. ゴリムマブ(シンポニー®)
    2011年7月に4週毎の皮下注射製剤として承認されています。完全ヒト型抗体であるため、TNFに対する結合親和性が高い薬剤です。自己注射は承認されていないため、月に1回受診したときに注射をします。MTXに効果不十分な関節リウマチ患者さんを対象として、ゴリムマブの追加併用を行うと臨床指標が改善したという結果が報告されています(GO-FORWARD試験)。1本(50mg)で効果不十分な場合や、MTXを使えない場合には2本(100mg)/月を用いることができます。他の皮下注射製剤よりも注射時の痛みが少ないと言われています。1~2週間毎の自己注射投与可能な皮下注射製剤と比べ、4週間間隔で通常の診療日に合わせて、診療・一瞬で治療を終えられる最大のメリットがあります。点滴製剤であれば、点滴時間だけで30分~2時間の時間的拘束を受けます。また、自己注射を覚える、また、覚えられない場合1~2週間隔で皮下注射を受けに医療機関行かなければならない負担を考えると、最も日本の患者さん目線の薬剤といえます。日本の方々は、一般的に治療を自宅で、自分で行うという事にとても抵抗を感じる傾向にあるためです。

  5. セルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)
    2012年11月に本邦で承認されました。この製剤は抗原に結合する一部分のみに遺伝的工夫がなされており、TNFに対する結合親和性を高め、さらにポリエチレングリコール分子を付加しているため、血中半減期が安定し、病変局所への移行がしやすいことが特徴とされています。関節リウマチに対する臨床試験において、関節破壊の抑制や日常生活動作の改善などが確認されています。妊婦が使用しても胎盤通過が極めて少ないことが報告されており、2014年改訂の日本リウマチ学会TNF阻害薬使用ガイドラインでも、「セルトリズマブペゴルはFc領域を有さないため胎盤通過に関与するFcRn受容体の影響を受けず、胎盤通過が極めて少ないことが報告されている」と記載されています。

  6. トシリズマブ(アクテムラ®)
    本邦発のヒト化抗IL-6受容体モノクローナル抗体製剤です。IL-6はTNFと同じく炎症性サイトカインの一つで、関節リウマチの病態のなかでも重要な役割を演じていることが知られています。トシリズマブはIL-6の受容体を阻害する作用があり、多くの臨床研究で関節リウマチに対する有効性が示されています。また、海外で実施された臨床研究(ADACTA試験)では、MTXを併用しなかった場合の直接比較でアクテムラがヒュミラよりも有効性が優れていることが示されました。
     
    ・これまでのレミケード(MTX併用必須)、エンブレル・ヒュミラはMTX併用によってはじめて驚くべき臨床効果、関節破壊抑制効果が発揮されたのに対し、アクテムラは単独療法(アクテムラのみ)でも高い有効性が証明されております。
     
    ・一次無効、二次無効が極めて少なく、生物学的製剤の中で最も継続率が高いです。これは、アクテムラがヒト化製剤であり、B細胞の活性化を抑制することで、抗体産生を抑制し、その結果アクテムラに対する抗体産生が極めて少ない(2~3%)ためと考えられます。
     
    臨床効果の発現は早ければ1ヶ月、平均して3ヵ月でみられます。
     
    ・豊富なエビデンスが構築されており(SAMURAI試験(2007年)、TOWARD試験(2008年)、OPTION試験(2008年)、RADIATE試験(2008年)、SATORI試験(2009年)、AMBITION試験(2010年)、LITHE試験(2011年))、アクテムラは臨床的寛解、構造的寛解、機能的寛解を期待できる薬剤です。
     
    アクテムラ単独療法からの薬剤中止を試みた本邦のDREAM試験では、アクテムラを中止し、再燃なく1年以上維持出来た方は10-20%で、再燃しても再投与行うと速やかに回復するという結果でありました。この試験は、MTX併用がなく、バイオフリーというよりいわばドラッグフリーというより高いハードルにもかかわらず、ドラッグフリーが10-20%可能であったのは、驚くべき結果と捉えられます。
     
    MTX併用が行えない場合の生物学的製剤は、アクテムラ投与が推奨されております。

  7. アバタセプト(オレンシア®)
    生物学的製剤の中でも唯一、サイトカインではなくT細胞を標的とする薬剤です。T細胞はリンパ球の一つで、関節リウマチの病態において、炎症の促進や破骨細胞の分化にも関与しています。アバタセプトはT細胞の活性化を阻害することで関節リウマチの病態を抑制する薬剤で、数々の臨床試験でその有効性が示されています。また、アダリムマブとの直接比較試験で非劣性が示されています(AMPLE試験)。

 
オレンシアはACPA(抗CCP抗体)を正常化し、それは高い治療反応と関連性があることが示されました(AVERT試験)。AVERT 試験で得られたサブ解析から、さまざまなタイプのACPAに対するオレンシア+MTX併用療法の効果、そして臨床的反応との関係を評価しました。

これらのデータから、試験開始時にIgM抗体型ACPAが陽性であった患者群では、同抗体が陰性であった患者群に比べ、オレンシア+MTX 併用療法がより高い臨床的有効性を持つことが示唆されました。同時に、時間の経過とともにセロコンバージョン(ACPA陽性から陰性への転換)が認められた患者群では、転換が認められなかった患者群に比べ、オレンシア+MTX 併用療法がより高い臨床的有効性を持つことも示唆されました(それぞれ群の61.5%41.2%がBoolean基準による寛解を達成)。つまり、これらのデータから、ACPAに対する効果がRA患者に対する臨床ベネフィットと関連していることが示唆されています。オランダのライデン大学メディカルセンターのT.W.J. ホイジンガ氏(Huizinga, M.D., PhD)は次のように述べています。「これらのデータは、自己免疫の高活性化と自己抗体の存在を特徴とする早期RAにおいて生物学的療法がACPAに影響を及ぼす可能性があることを初めて示したデータの一つである。これらの所見は、こうした生物学的反応の指標が疾病の定義と治療法管理において果たしうる役割について、さらなる知見を提供するであろう」と。

 

表. 本邦で使用可能な生物学的製剤の一覧(2015年2月現在)

 

s4_img1

生物学的製剤の選択と注意点

7種類ある生物学的製剤のうち、どの薬剤を使用するかは、標的、症状の程度や進行、合併症の有無など副作用の起こりやすい背景を持っているかどうか、生活スタイルなど様々な点を考慮して、患者さんご本人と相談しながら決めていきます。
生物学的製剤は、より狙い撃ちしたピンポイント治療になり、また、細胞の表面にある分子にしか作用しないため、高用量を用いても生体の負担が少ないと言われています。しかしながら、炎症性サイトカインや炎症細胞は、本来自分の体を外的から守る免疫が活性化したときに必要となるものですので、これらを抑えすぎてしまうと、感染症にかかりやすくなるのに加えて、体に潜んでいた病原体(結核菌、B型肝炎ウイルスなど)が活発化してしまうことがあります。そのため生物学的製剤は、その使用にあたって、リウマチ専門医による適切な評価と注意が必要な薬剤です。また、生物学的製剤は遺伝子工学の手法を用いて製造されているため、値段が高いという短所があります。

新規分子標的低分子化合物

関節リウマチに対する新規の分子標的治療薬として、トファシチニブ(ゼルヤンツ®)が2013年3月に本邦で承認されました。トファシチニブはサイトカインの細胞内シグナル伝達に重要な役割を果たすJAK(ヤヌスキナーゼ)と呼ばれるキナーゼ蛋白を標的とした低分子化合物です。生物学的製剤と同等の効果を経口薬剤として初めて実現した薬剤です。MTXに効果不十分な関節リウマチ患者さんを対象とした臨床試験では臨床指標の改善と関節破壊抑制効果が示されています(ORAL Scan試験)。原則として、十分量のMTXによるに効果不十分な患者さんへの投与が考慮されます。生物学的製剤と同様に、B型肝炎や結核を含めた感染症に注意する必要があります。また、国際共同試験において、日本人では帯状疱疹の発現率がやや高い傾向が見られたこと、投与中に悪性リンパ腫、固形がんの発現が見られたことがありますが、トファシチニブとの因果関係は明らかではありませんでした。薬価は2539円/ 5mg錠であり、値段は生物学的製剤と同程度です。

社会保障制度、医療福祉制度

分子標的治療はその値段から、経済的な負担が問題の一つです。医療費が一定以上の高額になったときは高額医療のための助成制度があります。高額療養費制度は、1ヶ月で使用した医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に金額が支給される制度です。年齢や所得に応じて支払う医療費の上限が定められています。支給を受けるには加入している公的医療保険に申請する必要があります。また、身体活動や日常生活に関しては、身体障害者福祉制度や介護保険制度が利用できる場合があります。少しでも負担を軽くして治療が続けられるような仕組みになっています。

pagetop